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ロンドン日記(3)

十月七日火曜日

 午後の飛行機でロンドンを発つ。夕方までに空港へ行けばいい。地下鉄で1時間もかからない。ならば時間が半日あるではないか。そういうわけでおまけのロンドン散策ができる。
 とは言ってもやることは決まっている。大英博物館を堪能すること、ナショナルギャラリーを堪能することである。できれば気に入っているパブで昼ご飯をとれればうれしい。いまから新しいところを見に行っても印象は残らないだろうから、勝手がわかっているところを味わうことにしたのである。
 早速でかけたのだが、ちょっと行って見たいところを思いついた。それは「ヘブンマンション」である。テレビドラマ『名探偵ポアロ』に登場するマンションで、このドラマを見た人ならば印象に残っているだろう。20世紀初頭の建築。近代建築というか現代建築というか、いい感じのするマンションである。確か地下鉄駅「バービカン」から歩いてすぐということだったはず。ならば、ということでここへ行くことにした。
 バービカン駅へ行くために地下鉄に乗っていたら、その駅は封鎖されているという放送があった。工事だろうか。仕方ないので手前の駅で降りた。バービカンへ行くための代替交通についての張り紙を見た。なんと、バービカンへは「バス」で行けとある。バスかぁ。しばらく封鎖されているようだ。ロンドンの地図を眺めると歩けばいけそうだった。途中ロンドン博物館というものがあるので、人通りは確保されているだろうから、一人でぶらぶらしても危なく無くないだろう。そう思ったので、駅をでて道沿いに歩き出した。
 雨だった。20分くらい歩いただろう。結構濡れた。目的地はバービカン駅から50mくらいのところにあった。ちょっと広くとった小さな講演の周りに駐車場があり、その一角にあのマンションがあった。
 想像していたよりも小ぶりだが、重量感もある。窓は大きい。今でも住人はいるようで、きっと高級マンションなのだろう。現在での状況ではポアロの撮影はできないだろうな、と思う。新シリーズは昔撮影したものを編集しているのだろうな。少し周りを歩いて見たが、写真を撮っている人には出会わなかった。挙動不審なのはぼくだけかもしれない。マンションの住人から通報される前に立ち去ったほうがいいかもしれない。

 残り時間も減ってきたので、大英博物館へ行った。もう一生来れないかもしれないと思うと悲しくもあるが、もう十分みたなという思いもある。なにせ、これまで18回見に来ているが、今回の滞在で4回きたので合計22回来たことになる。並の日本人よりは大英博物館へ通っているだろう。もっとも、住んでいる人にはかなわないけど。
 ブリティッシュミュージアムということだが、2階の一部をのぞき、ブリティッシュなものはあまりない。目玉の一つがパルテノンからかっぱらってきた大理石像であるが、これなんかギリシャ文化の最たるものである。まぁ、旅行者にとってはブリティッシュでなくても、いいものがみれればそれでいいのだけど。
 あらためてこの彫像の前に立つ。本当に良くできている。紀元前300年代からあったのだから、現在に生きているぼくは一体何をやっているのやら、という気がする。
 この彫像の前に立つと、女神の体温を感じる。ほてった身体からの輻射や汗による湿気を感じるのだ。そんな分けないのだが、大理石なのにぼくの脳が騙されてしまうのだろう。
 このリアリティは何処から来るのかと考える。ぼくは「見えないところ」が大きな力をもっているのではないかと思っている。たとえば、これらの彫像はパルテノン神殿の破風に飾られていたのだから、完成したあとに彫像の裏側を見ることは「物理的に不可能」である。にもかかわらず、これらの彫像の裏側は「ちゃんと」掘り込んである。僕の無意識は、そういうところを直接感じちゃうのかもしれない。今回後ろ側に回って見て驚いたのだ。ひょっとしたら、これが芸術の味噌なのかもしれないと。つまり、意識が直接計測できるような部分に「感動」する源はなく、無意識が感じてしまうようなところに、どれだけ細工がしてあるのか。そういうとこの有無で、何世紀も残るものと残らないものがあるのかもしれない。などと、素人ながらに思った。
 以上はぼくの素人考えなので、トンチンかなことを言っているかもしれない。それでも、何日間かに渡って名作をていると、自分なりの芸術論のようなものが持てるようになる。これだけ浴びるように名作を観賞する機会はもう無いかもしれないけど、日本にいても芸術は楽しめるはずだというという自信を持つ事はできた。美術を勉強したわけではないが、美術についての基準がぼくのなかの発生したようである。その基準を頼りにしながら今後も楽しみながら技術観賞をしたい。できればなにか自分でも作品を作っていきたいな。そんな前向きの気分になれた。

 パブで食事をとりながら、今回の滞在を振り返った。あとはピカデリー線でヒースローへ行くだけだ。ビールなんぞ飲んでも大丈夫だろう。
 ロンドンという都市をあっちこっち巡ったわけではない。にもかかわらず、とても勉強することができた都市である。さすが、歴史の厚みを感じる。日本にあまたある地方新興都市とは全く違う。歴史のない都市には住みたくないなと思った。
 

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おお、ヘブンマンション。ポアロの部屋は4階だったよなぁ。

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大英博物館にあるパルテノンの彫刻。間近に寄ると体温や湿気を感じるような気がする。

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完成時には絶対に人から見えないところでもちゃんと彫ってある

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お気に入りの昼食ポイント。ハーフパイントで十分。